最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)328号 判決 1963年3月28日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人指定代理人青木義人、同越智伝、同門野幸栄の上告理由について。
不動産に対し仮差押の執行をなした債権者がある場合、後日該不動産に対し競売法による競売手続が開始せられても、右仮差押はこれがため失効することなく、競売執行手続の進行中右仮差押債権者のため執行の要件が完備するに至らないときは、他日或いは右仮差押債権者に配当せらるべき金額は、そのままなおこれを供託し、右仮差押債権者は配当に与かる債権者となり、従つて競売法三三条二項の場合に、民訴六九七条、六三〇条三項の準用があるとなすことは、仮差押の執行保全の見地から相当というべく、また判例の示すところであり(昭和九年(オ)第二四八一号、同一〇年四月二三日大審院判決、民集一四巻七号六〇一項)、右判例を変更すべき必要を認めない。原判決はこれと同趣旨の判断を前提とし、本件転付命令は、かかる仮差押債権者の有する権利を侵害することを得ないものであるから、結局無効であると判示しているのであつて、正当としてこれを是認することができる。所論引用の昭和八年一一月二一日の大審院判決は、抵当権実行のためにする競売手続において、執行力ある正本を有せざる債権者が民訴六四七条二項に準じ単純に配当要求をなすことはこれを許さない旨判示したものであり、原判決および前記昭和一〇年四月二三日の大審院判例は、仮差押の執行保全という面から、仮差押債権者に配当に与かる効果を認めたものであつて、両者の間に所論のような矛盾は認められない。所論はひつきよう独自の見解に立つて、原判決の違法をいうものであり、採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七 裁判官 斉藤朔郎)